はじめに
前回の記事では、償却資産税について概要を説明しました。
その中で「一括償却資産」は償却資産税の対象とはならないということをご紹介しましたが、その詳細については触れていなかったので、今回は「一括償却資産」について説明したいと思います。
「一括償却資産」は、その名の通り、「一括」で「償却」する「資産」なのですが、そもそも「償却」ってなに?「資産」ってなに?というあたりから見ていきたいと思います。
減価償却ってなに?
減価償却とは
会計の世界では「資産」というと大きく「流動資産」と「固定資産」に分けられます。
「流動資産」には、現金・預金や現金に比較的すぐにかえられる有価証券や受取手形のようなものが含まれます。一方で「固定資産」には、現金にはすぐにかえることが難しい土地や建物、構築物などが含まれます。
この固定資産のうち、土地は時間が経過したり、使ったりしても価値が減少することはありません(地価が下落することはありますが、逆に上がることもあります)が、建物や構築物などは、一般的に時の経過や使用、劣化によりその価値が減少すると考えられます。
そして、その価値が減少していくことを、会計上「減価」と呼び、いくら「減価」するかを定量的に表現したものを「減価償却費」と言っています。
例えば、2,000万円で購入した建物は、1年後にはその価値が100万円、2年後には200万円減っている、と会計上考えます。この価値の減少分を会計上「減価償却費」として計算、記録していきます。
減価償却費の計算方法
会計・税務の世界では、資産の種類によって「耐用年数」と呼ばれる「その資産の価値が持続する期間」が決められています。
言い換えればその「耐用年数」の期間にわたって、減価償却費を計算し、その資産を購入した時の価値から徐々に価値を減らしていくということをやるわけです。
減価償却費の計算方法は、以下の通り①定額法と②定率法の2種類があります。
①定額法
「毎年同額」の価値が減少していくと考える方法です。したがって、減価償却費は基本的に毎年同じ金額となります。
取得日によって、以下の2通りの方法があります。
- 平成19年3月31日以前に取得したものは、「旧定額法」
- 平成19年3月31日以後に取得したものは、「定額法」
②定率法
「毎年一定の割合」で 価値が減少していくと考える方法です。 したがって、減価償却費は1年目が最も大きくなり、2年目、3年目と時が経過するにつれてだんだんと減っていきます。
また、定額法と同様、取得日により「旧定率法」、「定率法」のいずれかで計算します。
一括償却資産とは
一括償却資産の概要
このように、通常の「減価償却資産」は時の経過、使用とともに定額法または定率法によって「減価償却費」を計算していくことになるのですが、「一括償却資産」となるものは、この「減価償却費」の計算が異なっています。
「一括償却資産」とすることができるのは、取得価額が20万円未満の減価償却資産です。
通常の減価償却資産は、種類により耐用年数(償却率)が異なりますが、取得価額が20万円未満のものは、下記の計算式により3年(36か月)で均等償却(費用計上)できます(通常の減価償却との選択適用)。
償却額 = 一括償却資産対象額 × 事業年度の月数÷36(か月) |
この式からも分かる通り、一括償却資産は期中のどの時点で取得しても月割計算の必要はありませんので、「事業年度の月数」は通常12か月となります。
年の途中に資産を購入した場合、通常であれば購入し、使用を開始した月からその年の終わりまでの月数分しか減価償却費を計上できない(12月に買った場合は、1年の減価償却費の1/12のみしか計上できない)のに対し、一括償却資産は、本来の耐用年数より短い期間で減価償却をする(12月に買っても1年分の減価償却費を計上できる)ため、経費とできる金額が増え、結果として税金が減ることになります。
一括償却資産の具体的な処理
「一括償却」をすることができるかどうかの基準である「取得価額が20万円未満」であるかどうかは、「通常1単位で取引される単位」(1個、1台、1組など)で判断します。
また、事業年度中に取得した資産が複数あった場合は、まとめて償却費を計算します。
例えば、ある事業年度に購入した一括償却資産が1個10万円の備品×15個であった場合、一括償却対象額は150万円です。
損金算入限度額(償却額)は、一括償却資産としてまとめた金額を3年で償却するため、150万円×12か月÷36か月=50万円となります。
一括償却資産のメリット
通常の減価償却資産とくらべ、一括償却資産には以下のメリットがあります。
節税・資金繰りの改善につながる
上で説明した通り、一括償却資産は3年で取得価格の全額を費用(損金)にできます。つまり、早期に費用化ができるため、納付する税額をおさえることが可能です。
利益が残るからといって年末に慌てて資産を買っても通常の減価償却資産であれば、1/12しか経費にできませんが、一括償却資産であれば年末に買っても1/3を費用化できます。
事務負担が軽減される
一括償却資産は、
- 減価償却費が毎期均等
- 事業年度中に取得した資産をまとめて計算する
といった特徴により、事務処理が簡単です。
償却資産税が課税されない
前回の記事で説明したとおり、構築物や器具備品には、固定資産税の一種である償却資産税が課税されますが、一括償却資産は課税対象外です。
一括償却に似たような仕組みとして、こちらの記事で、「少額減価償却資産の特例」を利用して「30万円未満のものについてはその年の経費に入れることができる」ことを紹介しました。
節税対策や事務処理といった観点からは、 「少額減価償却資産の特例」を利用することのメリットも大きいのですが、この特例を利用した場合は償却資産税の対象となってしまいます。
このため、償却資産税の免税点を超えそうな場合は、「少額減価償却資産の特例」と「一括償却」について、どちらを利用した方がよいか慎重な検討が必要となりますので、そのような場合は、税理士への相談を検討してもよいでしょう。
まとめ
- 建物や構築物など、一般的に時の経過・使用とともにその価値が減少することが想定される資産を「減価償却資産」という
- 「減少」する「価値」の程度を定量的に測定する方法が「減価償却」である
- 通常、定額法または定率法によって毎期一定の「減価償却費」の計算を行い、費用とする
- 通常の減価償却費の計上手続きのほか、「一括償却」として処理する方法がある。
- 「一括償却」をする資産を「一括償却資産」といい、取得価額20万円未満である必要がある。
- 「一括償却資産」は3年均等償却で費用化でき、償却資産税の対象外であるため、節税効果がある。
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